定期健康診断、実施・受診しただけで十分だと思っていませんか?
定期健康診断の実施状況
事業者は、労働安全衛生法第66条に基づき、労働者に対して、医師による健康診断を実施しなければなりません。また、労働者は、事業者が行う健康診断を受けなければなりません。
事業者に実施が義務づけられている健康診断は、一般健康診断と特殊健康診断に分けられます。一般健康診断としては、定期健康診断(安衛則第44条)、雇入時の健康診断(安衛則第43条)、特定業務従事者の健康診断(安衛則第45条)、海外派遣労働者の健康診断(安衛則第45条の2)、給食従業員の検便(安衛則第47条)が含まれます。それ以外に、法令で定められた有害な業務に常時従事する労働者等に対し、原則として、雇入れ時、配置替えの際及び6月以内ごとに1回(じん肺健診は管理区分に応じて1~3年以内ごとに1回)、それぞれ特別の健康診断を実施しなければなりません。
健康診断の実施率については、少し古いデータになりますが、平成24年度労働者健康状況調査によると、過去1年間に常用労働者に定期健康診断を実施した事業所の割合(実施率)は 91.9%となっており、事業所規模別にみると、500人以上の規模で 100%実施されています。中小規模の事業所では、実施率はやや下がり、50~99人規模では98.2%前後、30~49人規模では 96.8%、10~29 人規模では 89.4%となっています。
定期的健康診断の有所見率は増加の一途を辿っており、令和3年定期健康診断実施結果報告によれば、令和3年の有所見率は58.7%となっています。有所見率を項目別に見ると、血中脂質が33.0%と最も高く、ついで血圧(17.8%)、肝機能障害(16.6%)、血糖検査(12.5%)、心電図(10.5%)となっています。
健康診断で異常を指摘された労働者の受診状況
平成24年度労働者健康状況調査によれば、過去1年間に会社が実施する定期健康診断を受診した労働者の割合は全体の88.5%となっており、そのうち「所見ありと通知された」が全体の36.2%となっています。年齢別で見ると、「所見ありと通知された」20歳未満の労働者は3.6%にとどまりますが、年齢とともにその割合は増加し、40~49歳で45.3%、50~59歳で54.3%、60歳以上では47.3%となっています。
さらに、「所見ありと通知された」労働者のうち「要再検査又は要治療の指摘があった」労働者は75.0%で、「再検査又は治療を受けた」労働者は48.3%となっています。つまり、要再検査又は要治療の指摘があった労働者のうち、3人に1人は検査は受けていないということになります。「定期健康診断を受診し、要再検査又は要治療の指摘があったにも関わらず受診ができていない労働者」を年齢別に見ると、20歳未満では0.19%、20~29歳では4.6%、30~39歳では7.1%、40~49歳で13.8%、50~59歳で12.1%、60歳以上で11.8%となります。
つまり、定期健康診断で要再検査又は要治療の指摘がされても、労働者の3人に1人は受診行動につながっていません。特に40歳以上の労働者全体のうち、おおよそ8人に1人は、「定期健康診断を受診し、要再検査又は要治療の指摘があったにも関わらず受診ができていない労働者」なのです。さらに上記でも出てきましたが、検査項目別の有所見率のデータからも分かる通り、このような受診ができていない労働者に認められる所見というのは、脂質異常や高血圧、血糖異常などの生活習慣病に関連したものばかりです。ご存知の通り、脂質異常、高血圧、血糖異常は、メタボリックシンドロームにも深く関連する病態です。これらの疾患が放置されれば、動脈硬化の進行から虚血性心疾患や脳血管疾患を引き起こします。
下の図は、中央社会保険医療協議会 総会資料(第412回)からの引用ですが、このグラフを見ると、メタボリックシンドローム該当者及び予備軍のうち、内服治療をしていない者の割合は、40~44歳では男女とも80%を超えています。年齢とともに徐々に減少傾向となり、60~64歳で40%前後となるようです。また平成28年国民健康・栄養調査報告によれば、メタボリックシンドローム該当者及び予備軍は、20-29歳で11.6%、30~39歳で11.8%いるとされており、先ほどのデータと合わせて考えると、若年のメタボリックシンドローム該当者及び予備軍についても、治療していない労働者が多くいることが推測されます。
定期健康診断で異常を指摘された方が、健康診断の結果に基づいて治療を受けたり、生活習慣の改善や就業条件・環境の改善などに取り組めるよう受診勧奨などの支援をすることが重要です。
メタボリックシンドローム該当者や予備軍の方が長期にわたって未治療のまま放置されてしまうと、動脈硬化の進行から虚血性心疾患や脳血管疾患を引き起こすリスクが高くなります。令和3年(2021) 人口動態統計月報年計(概数)の概況によれば、死因の1位は悪性新生物(26.5%)ですが、2位は心疾患(14.9%)、4位は脳血管疾患(7.3%)となっています。生活習慣病やメタボリックシンドローム、動脈硬化に深く関連した心疾患や脳血管疾患が死因の上位を占めているのです。
心疾患、脳血管疾患の予防のためにも、定期健康診断で異常を指摘された方が、健康診断の結果に基づいて治療を受けたり、生活習慣の改善や就業条件・環境の改善などに取り組めるよう受診勧奨などの支援をすることが重要です。特に40~60歳の労働者に対しては積極的に健康診断後の事後措置を行うことが効果的です。定期健康診断を実施・受診しただけでは労働者の健康は確保できないのです。