あなたの肥満は、治療が必要な肥満症ではありませんか?

肥満と肥満症について

肥満とは「太っている状態」を示したもので、病気を示す言葉ではありません。(身長に比較して体重が重い状態です。体格指数(BMI=体重[㎏]/身長[m]2)が18.5以上25未満であれば普通体重、18.5未満なら低体重(やせ過ぎ)で、25以上の場合が肥満に分類されます。さらにBMIが35以上になると高度肥満に区分されます。)

一方、肥満症とは、肥満に伴って健康を脅かすような合併症が有る場合、または合併症になるリスクが高い場合をいい、医学的な治療の対象となりうる状態です。(肥満による11種の健康障害(合併症)が1つ以上あるか、健康障害を起こしやすい内臓脂肪蓄積がある場合に肥満症と診断され、減量による医学的治療の対象になります。BMIが35以上の場合、高度肥満症となります。)

職場の特定健診などで指摘されることが多いメタボリックシンドロームは、過剰に内臓脂肪が蓄積している状態です。診断基準は、腹囲が男性で85cm以上、女性で90cm以上で、血圧、血糖、脂質のうち2つ以上が基準値から外れている状態です。心筋梗塞や脳梗塞など命にかかわる動脈硬化性疾患を引き起こすリスクが高いため、早期に内臓脂肪を減らす対応が必要となります。(メタボリックシンドロームはBMIが25未満の状態でも診断されることがあります。)

下の図は、日本肥満学会のHPから引用した図ですが、肥満と肥満症、メタボリックシンドロームの違いが分かりやすく説明されています。肥満による合併症には、高血圧や脂質異常、糖尿病、脂肪肝、痛風などの生活習慣病に加えて、月経異常や不妊、睡眠時無呼吸症候群が含まれていることは注意すべきです。なお、日本肥満学会からは、2022年12月に肥満症診療ガイドライン2022が出されています。

演習1:自分のBMIを計算してみましょう

毎年、職場で受けている定期健康診断の結果は確認しているでしょうか?定期健康診断の結果には、体格指数(BMI)が記録されています。BMIの計算は、電卓があれば簡単に計算できます。自分のBMIを知ることは、ご自身の健康管理の点から重要ですので、ぜひここで計算方法を覚えてください。

体格指数(BMI=体重[㎏]÷身長[m]2

です。体重(kg)を身長(m)で2回割ってください。例えば、身長170cm、体重80kgの人ですと、80÷1.7÷1.7=27.7 となりますので、BMIは27.7と計算できます。

BMIが、18.5以上25未満が普通体重、18.5未満は低体重、25以上35未満が肥満、35以上が高度肥満となります。例にあげた人は、肥満と判定できます。ご自身のBMIがどこに当てはまるのか、確認してみてください。

国民の肥満の状況について

肥満者の状況については、国民健康・栄養調査をみると、その推移が示されています。令和2、3年は新型コロナウイルス感染症の影響により調査中止となっておりますので、最新のデータは令和元年のものになります。この調査結果を見ると、20歳以上の肥満者(BMI≧25kg/m2)の割合は、男性で33.0%、女性で22.3%となっています。男性だと3人に一人が肥満なんです。男性については、20〜60歳にかけて年齢を問わず、肥満者は多く、特に40歳以降で増加が目立ちます。女性では年齢が大きくなるとともに、肥満者は増加していく傾向があります。この傾向を踏まえた職場での肥満対策が必要となりそうです。特定健診・特定保健指導の対象になる前の20〜30歳代に運動習慣をもつことで、肥満を予防することは、職域における産業保健の戦略としても有効ではないでしょうか。

令和元年国民健康・栄養調査結果の概要より引用

肥満症の治療について:現体重の3%の減量

肥満症の治療の基本は減量です。ただし、治療の目的は単純に体重を減らしてBMIを25以下にすることではなく、内臓脂肪を減らして肥満に合併する疾患を予防・改善することです。肥満症の合併症である11種類の疾患は、体重減少により改善が期待できるので、それぞれの合併症に合った減量目標を設定します。肥満症治療ガイドラインでは、現体重の3%以上の減量によって複数の健康障害が改善するというエビデンスに基づき、現体重の3%以上の減量目標を設定するとされています。高度肥満症の場合には、合併する健康障害に応じて、減量目標は異なりますが、現体重の5〜10%を目標にするとされています。なお、減量目標を達成した場合にも、合併する健康障害の状態を踏まえて目標を再設定し、治療を継続する必要があります。

体重を10kg減らしましょうといわれると、ちょっと無理かも、と思ってしまいがちですが、現体重から3%減らしましょう、という目標であれば、頑張ればできるかもと思えてきます。体重80kgの人であれば、2〜3kgのダイエットです。現体重から3〜5%減量しただけでも、血圧や血液データには改善がみられます。

基本的な治療は、食事療法、運動療法、行動療法などを通してライフスタイルを改善することです。一人ひとりの背景や環境に合った食事療法と運動療法を行います。また、食事・運動療法は続けることが何よりも大切で、かつ難しいことです。動機付けやいかに生活の中に無理なく自然に取り入れるかを工夫することで、食事療法と運動療法の効果が高まります。食事療法については、肥満症では25kcal×目標体重以下となるようカロリーを抑えた食事が推奨されています。目標体重については、BMIが22となるよう体重を標準体重とし、年齢などを考慮して目標体重を設定します。

なお、肥満症治療ガイドライン2022では、食事、運動、行動療法を行っても減量目標が未達成の場合には、食事療法の強化に合わせて、薬物療法や外科的な治療などの導入が検討されることもあるとされています。このあたりは専門医に相談してみるようにしてください。

演習2:自分の標準体重を知り、適切な食事のカロリー量を計算してみましょう。

BMIが22となる体重が標準体重とされています。標準体重の計算式は、22×身長(m)×身長(m)となります。

身長170cm、体重80kgの人であれば、標準体重は、22×1.7×1.7=63.5(kg)となります。

適切な食事のカロリー量についてですが、減量などをしていない通常の状態では、(総エネルギー摂取量の目安)=(目標体重)(kg)×(エネルギー係数)(kcal/kg)として計算できます。エネルギー係数は身体活動レベルによって変わってきますが、軽い労作(大部分が座位の静的活動)の人で25〜30、普通の労作(座位中心だが通勤・家事、軽い運動を含む)の人で30〜35、重い労作(力仕事、活発な運動習慣がある)の人で35以上となります。一般的な労働者で、エネルギー係数を30〜35として、必要な総エネルギー摂取量を計算すると、先ほどの例の人では1900〜2200kcalとなります。肥満症で食事療法をする場合には、(25kcal×目標体重)ということで、1600kcal程度に食事を抑えることが必要ということになります。

1kgの減量(腹囲を1cm減少)を達成するには、約7000kcalを減らすことが必要とされています。先ほどでてきた総エネルギー摂取量の目安を参考に、ベースとなる食事量を決め、そこから食事量を減らしたり、運動してエネルギーを消費することで、減量していきます。急激な体重変化は体調を崩したり、リバウンドを来すこともありますので、計画的に少しずつ減量を進めましょう。この時、食事によってどの程度のカロリーを摂取しているのか、また運動によってどの程度のカロリーが消費されるのかを知ることが重要になります。

例えば、1ヶ月に1kgを減量(腹囲を1cm減少)させようとすると、平均して1日に230kcalほど減らさなければなりません。先ほどの説明の通り、食事量を減らすか、運動してエネルギー消費することで1日あたり230kcal分を消費することが必要になります。

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厚生労働省は、ライフステージに応じた健康づくりのための身体活動(生活活動・運動)を推進することで健康日本21(第二次)を推進できるよう、「健康づくりのための身体活動基準2013」を定めています。この中で、日常の身体活動量を増やすことで、メタボリックシンドロームを含めた循環器疾患・糖尿病・がんといった生活習慣病の発症及びこれらを原因として死亡に至るリスクや、加齢に伴う生活機能低下(ロコモティブシンドローム及び認知症等)をきたすリスク(以下「生活習慣病等及び生活機能低下のリスク」という。)を下げることができ、加えて運動習慣をもつことで、これらの疾病等に対する予防効果をさらに高めることが期待できるとしています。

「健康づくりのための身体活動基準2013」では、健康づくりにおける身体活動の意義を次のように示しています。

身体活動(physical activity)は、日常生活における労働、家事、通勤・通学等の「生活活動」と、体力の維持・向上を目的とし、計画的・継続的に実施される「運動」の2つに分けて考えます。日常の身体活動量を増やすことで、メタボリックシンドロームを含めた循環器疾患・糖尿病・がんといった生活習慣病の発症及びこれらを原因として死亡に至るリスクや、加齢に伴う生活機能低下(ロコモティブシンドローム及び認知症等)をきたすリスク(以下「生活習慣病等及び生活機能低下のリスク」という。)を下げることができます。加えて運動習慣をもつことで、これらの疾病等に対する予防効果をさらに高めることが期待できます。 特に、高齢者においては、積極的に体を動かすことで生活機能低下のリスクを低減させ、自立した生活をより長く送ることができるとしています。身体活動に取り組むことで得られる効果は、将来的な疾病予防だけではなく、以下のような効果を通して、様々な角度から現在の生活の質を高めることができるとしています。

・日常生活の中でも、気分転換やストレス解消につながることで、いわゆるメンタルヘルス不調の一次予防として有効であること

・ストレッチングや筋力トレーニングによって腰痛や膝痛が改善する可能性が高まること

・中強度の運動によって風邪(上気道感染症)に罹患しにくくなること

・健康的な体型を維持することで自己効力感が高まること

一方で、身体活動不足は、肥満や生活習慣病発症の危険因子であり、高齢者の自立度低下や虚弱の危険因子でもあります。健康日本 21最終評価によると、平成9年と平成21年の比較において、15歳以上の1日の歩数の平均値は男女ともに約1000歩減少 (1日約10分の身体活動の減少に相当)しており、今後もさらに高齢化が進展する日本において、総合的な健康増進の観点から身体活動を推奨する重要性は高いとしています。

「健康づくりのための身体活動基準2013」より引用、一部改変

「健康づくりのための身体活動基準2013」で示されている基準のうち、ここでは産業保健領域で関わることが多い18〜65歳の方の基準について確認をしていきます。18〜65歳の方の基準は以下の通りです。

生活活動については、強度が3メッツ以上の身体活動を23メッツ・時/週行う。具体的には、歩行又はそれと同等以上の強度の身体活動を毎日60分行う。現在の身体活動量を、少しでも増やす。例えば、今より毎日10分ずつ長く歩くようにする。

「3メッツ以上の身体活動(歩行又はそれと同等以上の動き)」の例として、普通歩行(3.0メッツ) 犬の散歩をする(3.0メッツ) そうじをする(3.3メッツ) 自転車に乗る(3.5~6.8メッツ) 速歩きをする(4.3~5.0メッツ)こどもと活発に遊ぶ(5.8メッツ) 農作業をする(7.8メッツ) 階段を速く上る(8.8メッツ)が挙げられています。

運動については、強度が3メッツ以上の運動を4メッツ・時/週行う。具体的には、息が弾み汗をかく程度の運動を毎週60分行う。運動習慣をもつようにする。具体的には、30分以上の運動を週2日以上行う

「3 メッツ以上の運動(息が弾み汗をかく程度の運動)」の例として、ボウリング、社交ダンス(3.0メッツ) 自体重を使った軽い筋力トレーニング(3.5メッツ) ゴルフ(3.5~4.3メッツ)ラジオ体操第一(4.0メッツ)卓球(4.0メッツ) ウォーキング(4.3メッツ) 野球(5.0メッツ) ゆっくりとした平泳ぎ(5.3メッツ)バドミントン(5.5メッツ) バーベルやマシーンを使った強い筋力トレーニング(6.0メッツ) ゆっくりとしたジョギング(6.0メッツ)ハイキング(6.5メッツ)サッカー、スキー、スケート(7.0メッツ) テニスのシングルス(7.3メッツ)が挙げられています。

生活習慣病患者等の身体活動に伴う危険性について

糖尿病、高血圧症、脂質異常症等に対する、身体活動(生活活動・運動)の効果は明確である一方、心臓疾患や脳卒中あるいは腎臓疾患等の重篤な合併症がある患者では、メリットよりも身体活動に伴うリスクが大きくなる可能性があります。したがって、生活習慣病患者等が積極的に身体活動を行う際には、より安全性に配慮した指導が必要であることを踏まえ、合併症の有無やその種類に応じた留意点を確認して運動に伴う心血管事故を予防するために、かかりつけの医師等に相談することが望ましいとされています。心臓疾患や脳卒中あるいは腎臓疾患などの重篤が合併症を持っている人は、主治医に相談の上、運動を行うように心がけてください。