中小事業場における産業医活動に必要な業務時間について

職場における健康課題の多様化、深刻化

2022年10月から厚生労働省で産業保健のあり方に関する検討会が開催されています。この検討会では、産業現場のニーズを踏まえつつ、より効果的に産業保健活動が推進されるよう、産業保健に関わる者の役割分担や連携のあり方、保険者等との連携のあり方、小規模事業場における産業保健活動のあり方などが検討されることとなっています。

第1回の産業保健のあり方に関する検討会資料 産業保健に関する現状と課題によれば、職場における健康課題は、多様化と深刻化が進んでおり、労働安全衛生法が制定された当時には想定されていなかった健康課題が生じているとされています。

・ メンタルヘルス対策及びメンタルヘルス不調者への対応(職場復帰、就業管理等)の増大

・ 高年齢労働者の増加に対する疾病管理や重症化予防(増加を続ける健診の有所見率)

・ がん等の病気の治療と仕事を両立する労働者への疾病管理や就業管理

・ 女性就業者の増加に伴う女性の健康問題への対応

・ 化学物質の自律的な管理への移行に伴う健康管理対策

・ COVIDー19対応等の感染症対策(突発的な業務への対応による過重労働等対策を含む)

・ テレワークの増加に伴う健康管理上の問題等への対応

事業場の規模別にみた産業医の活動状況

下表は、産業保健のあり方に関する検討会 第1回資料 参考資料1 産業保健の現状と課題に関する参考資料に示されている事業場の規模別産業医及び衛生管理者の選任状況になります。1000人以上の規模の事業場では、産業医が幅広い業務に関与できているようですが、規模が小さくなるほど産業医が関与する業務は限定される傾向がみられています。

300人未満の中小規模の事業場についてみると、職場巡視や衛生委員会への出席が中心となり、必要な健康管理活動が行えていない事業場が多いことが示されています。特に大規模事業場に比べ、メンタルヘルス対策、長時間労働者への面接指導、健康相談や保健指導の実施、健康管理計画の立案などへの産業医の関与は、かなり低調となっています。小規模の事業場では、産業医が関与した産業保健活動がほとんど行われていない事業場も認められます。

前項で示したように、職場における多様化、深刻化する健康課題に対して、法令に規定されている産業医の職務は対応しきれておらず、産業医の資質、実際の活動内容とも乖離が生じているようです。また、健康経営に積極的に取り組むような企業が増加する一方で、産業保健は法令違反にならない範囲で良いと考える経営者も依然として存在しており、産業医との契約を必要最低限とし、法令上の義務となっている職場巡視や衛生委員会の出席だけを行っている(労働者の健康管理はほとんど行っていない)事業場もあるとの指摘があります。

実際、中小規模の事業場には、法令義務を果たすために産業医を選任しているところが多数みられるのが現状です。こうした事業場では選任された嘱託産業医が月1回訪問し、職場巡視と衛生委員会への参加をこなし、残りの時間で就業判定や休職者の面談をする等、最低限の業務に止まっているのが現状ではないかと思います。

産業医の活動内容と事業場が抱える健康管理に係る課題

事業場の規模別産業医及び衛生管理者の選任状況
産業保健のあり方に関する検討会 第1回資料 参考資料1 産業保健の現状と課題に関する参考資料

中小事業場における充実した産業医活動に必要な業務時間とは

現行の労働安全衛生法で定められている産業医の職務については、以下の通りです。

健康診断の実施及びその結果に基づく措置

長時間労働者に対する面接指導及びその結果に基づく措置

ストレスチェックの実施、高ストレス者に対する 面接指導及びその結果に基づく措置

作業環境の維持管理

作業の管理 ・健康教育

健康相談その他の健康保持増進措置

衛生教育

労働者の健康障害の原因の調査及び再発防止措置

月1回以上の職場巡視

月1回以上の衛生委員会への出席(産業医は衛生委員会の構成員)

以下、充実した産業医活動を提供するのに必要な業務時間について考えます。あくまで管理人の私見です。まずは、法令で定められている産業保健活動から。衛生委員会への出席(衛生講話の実施を含む)は一般的には30分程度。職場巡視は業種や事業場の規模によりますが、10〜20分程度となるかと思います(工場などの事業場では職場巡視にもう少し時間がかかることがあります)。健康診断結果の確認と就業区分判定(100人分)は年1回、1時間程度。産業医面談以外の法定項目の実施でおよそ月1時間になります。

これに加え、各種産業医面談対応(健康診断後の産業医面談や保健指導、長時間労働者に対する面接指導、従業員からの健康相談、ストレスチェックの高ストレス者に対する面接指導、メンタルヘルス対策及びメンタルヘルス不調者への産業医面談(職場復帰、就業管理等)など)は、丁寧かつ専門性を持って行うとすると1件あたり30〜60分程度かかります。この産業医面談の時間は、労働者と直接面談する時間以外に、面談記録の作成、意見書の記載、会社への情報共有の時間を含みます。その他、上記に述べたような多様な健康課題への対応に要する時間が必要となります。

産業医活動の所要時間については、職場巡視と産業医面談の件数、多様な健康課題への対応に要する時間により変動します。時間が長ければ長いほど余裕を持って多くの健康課題に取り組めるかと思いますが、企業活動においては金銭面など様々な制約もあるため、契約前に会社にとって必要な業務量を検討することが重要となります。会社にとって必要な業務量を検討することなく産業医の訪問時間を決めてしまい、後で無理やり業務を詰め込むことがないようにするのが、質の高い産業医サービスを受けるコツではないかと思います。

目安として従業員数が

50人未満では1〜2時間。(内訳は50人未満では衛生委員会と職場巡視が義務ではないため、主に産業医面談と健康課題への対応。)

50〜100人程度では2〜3時間。(内訳は職場巡視、衛生委員会、健康診断結果の確認で1時間程度。多様な健康課題への対応に加え、産業医面談が月に1〜2件発生するとして1〜2時間。)

100〜300人だと2〜4時間。(内訳は職場巡視、衛生委員会、健康診断結果の確認で1時間程度。多様な健康課題への対応に加え、産業医面談が月に2〜4件発生するとして2〜3時間。)

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